10年前の早朝のこと


あの震災で、祖母が亡くなりました。
前日まで、とても元気だった祖母が、あまりにもあっけなく亡くなりました。


私は、この祖母が大好きでした。
子供の頃、「おばあちゃんが死んでしまったら」と考えただけで、その想像だけで涙が留めなくあふれるほど、祖母が好きでたまりませんでした。


ところが、実際に祖母が亡くなった時、私は泣きませんでした。
人間は、あまりにも悲しいことの最中に放り込まれると、涙も出てこなくなるんだ…ということを、体験として知りました。


その後、我が家にはいろんなことがありました。
一番辛かったことは、祖母の遺産相続をめぐって親族の争いが起こり、それが今も完全には片付かないことです。


より有利な遺産取得をめぐって最も汚い手をつかった人は、祖母の葬儀では、一番派手に泣いていました。
その姿をときどき思い出しては「厭な気分になる自分」に、「もうやめようよ。もういいじゃない。モノが欲しい人には上げたらいい。それを惜しいと思うのを止めようよ!」…と言い聞かせる今日この頃・・・


思えば、この10年は、本当に長かったです。






でも、私には確信があります。
私が他界する時には、きっと、祖母は迎えに来てくれる・・・と。


葬儀のとき、私は、祖母の声を聞きました。
あれは、まぎれもなく祖母の声でした。
あまりに自然なので、私は一瞬、祖母が亡くなったことも忘れて、普通に反応してしまったほどです。
祖母は、葬儀の準備で忙しかった私を気遣ってくれていました。
「はやく、ゆうちゃんも、食べに行ってらっしゃい」…と、労わるような明るい声で言ってくれました。
祖母らしい優しさ、気遣いだった…と、今もこの「声」を思い出すたびに、胸に温かい懐かしさと嬉しさがこみ上げてきます。


おばあちゃん、ありがとう。
また会える日まで。


    (文責:ゆう)