母のこと


私は、経済的にとても恵まれた環境で育ちました。
いわゆる地方の名士で、周囲から常に尊重される両親や親族が一同に会すると、ちょっと壮観なものがありましたし、それは今も何も変わりません。


お蔭で私は、やりたいと思うことは、何でも出来ました。
家系的に教育熱心だったこともあり、何かを「学びたい」と言って拒否されたことは一度もなく、費用を惜しまれたこともありません。
特に父は、私に甘く、贅沢な京友禅の着物を何枚も作っては、着せるのを楽しみにするような人でした。


・・・しかし、私という子供は、いつも心の中が不満でいっぱいでした。
「不満」というのは、要するに、どうしようもない「孤独感」であり、「喪失感」であり、「自信の無さ」でした。


なんと私は、今に至るまで、両親とは「心」に関する話をしたことがありません。
そんなことは、もうとうの昔に諦めてしまっていて、「どうせ無理だ」と、思いきわめてます。


「心」に関する話・・・と言っても、別に「思想哲学」や「宗教」などの話題というわけではなく、もっと簡単に、「私は、本当は、こういうふうに思っている。感じている。なぜなら・・・」といったような話のことです。




子供の頃、私は、両親から「ヘリクツ屋」と呼ばれていました。
何か真剣に話そうと口を開いても、「妄想癖がある」とか、「すぐに自分を空想世界のヒロインにして勝手に悩む」とか、「素直さがない」・・・などなど、ばっさり拒絶されることが常でした。
その上に母は、ことあるごとに、私を「ブサイクになった」と言い続けました。


母は、綺麗な人です。
私が小さい頃、何度も「美人の奥様」として婦人雑誌のグラビアにも出たほどです。
でも、私はどちらかと言うと、父親似です。
また母に言わせると、「ゆうは、生まれてから3年間は、お人形さんみたいに可愛かったけど、それからは、ブサイクになる一方」・・・とのことでした。
ですから私は、自分のことを、子供時代から思春期末期まで、真剣に「ブサイク」だと思っていました。
家族で写真を撮っても、一番綺麗に写っているのは大抵母で、次に母に似ている妹・・・私は「ブサイク」と言われてますます意固地になり、わざわざしかめっ面だったり、ぶーとふくれていたり・・・でした。


私は、親、特に母とは、滅多に話をしませんでした。
「どうせ、この人には、何を言ってもわからない」と思ってました。
ですから、家にいても、一人でピアノを練習したり、本を読んだり、勉強したりして、自分の周囲に「結界」を作り、誰も寄せ付けないようにしていました。
ただ妹だけは、心通じるところがありましたが、彼女は器用で頭が良く、母と上手に付き合えるタイプだったので、母も自然と妹を寵愛するわけで、それはとにかく羨ましかったですね。
そう、私は、もうずっとずっと、妹に嫉妬し続けて生きていました。




それから、いろんなことがあって大人になり、どうにも不器用な私は、傷つかなくてもいいことに傷ついたり、わざわざそういう状況に自分を追い込んだり、なんて馬鹿なんだろう・・・と、幾度となくつぶやきながら今日まできました。




セレ氏と結婚したことで、母との溝は決定的になりました。
母は、セレ氏が嫌いです。
なぜなら、セレ氏に家柄がなく、しかも、「常識」がないから。(「常識」がないのは事実ですがネ^^)


でも、私は、セレ氏と出会ったことで、どんなに救われたかしれません。
だから、どんなに母が反対しようが、親戚の付き合いから私を排除しようが、別に平気です。


平気・・・、そう、平気ですが、でも・・・寂しいです。
このまま母とは、一生、心から分かり合うこともできないのかな・・と思うと、寂しいです。


母は、よく私のことを、「部分的」には認めてくれました。
「勉強だけは、よくできる娘で」と、自慢していました。
「ピアノは、音大のピアノ科にも充分進める腕前だと先生に仰っていただいてます」と、笑いながら来客に言ってました。
その言葉が聞きたくて、私は、いつも必死で勉強してたんでしょうか?
ピアノの練習をしてたんでしょうか?




母は、息子(孫)のことも、認めていません。
「よく考えたら、あなたの小さい頃とも気難しいところが似てるわ」などと言って、親子ダブルで否定してくれたりします(^^;)


そうなんですよ・・
母は、私を認めていないんです。
全然。


母とのことは、もうとうの昔に自分の中では解決済みだ・・と思っていますが、でも、ことあるごとに、心のどこかで、「これは母に認められるか?」と考えている私がいます。
そして、心の中の架空の母が、私を否定するたびに、勝手に寂しさをつのらせています。




こんな人間だから、スピリチュアリズムには、強く引き寄せられたのかもしれません。
引き寄せられ、シルバーバーチを貪るように読みました。
でも、だからといって、私の中の母への思いは、まだまだ解決されません。
シルバーバーチの霊訓は、魔法の呪文ではないのです。