「死」が怖いですか?(3)


私が、「人間は死ぬ」ということを初めて意識したのは、幼稚園児の時でした。


何がきっかけだったのかはよく覚えていません。
ただ、人間はみんな死ぬ、いつか死ぬ、お母さんも、お父さんも、自分も、みんな死ぬ・・・と思ったら、もうそれで眠れなくなりました。
その眠れなくなった時の、あの感覚、恐怖・・・は、つい昨日のことのように、よく思い出すことがあるんです。


私は、ありとあらゆる大人をつかまえては質問しました。
「死んだら、どうなるの?」


相手が子供なので、ほとんどの大人は、こう答えました。
「死んだら天国に行く」・・・と。
でも、何人かの大人は、こう付け加えました。
「でも、天国に行ける人は、心のきれいな人だけで、生きてるうちに悪いことをした人は、地獄というところに行かされます」・・・と。
私はしつこい子供だったので、「天国ってどんなとこ? 地獄ってどんなとこ?」と、毎日のように尋ねました。


私はしだいに、自分の中で具体的になっていく「地獄」が、恐怖の対象になりました。
幼稚園児ながら、自分は「地獄に行かされそうだ」と思えてならないんです。
「生きているうちに悪いことをした人」が行かされる場所なら、たぶん私は行かされる・・・と思いました。
なにしろ私ときたら、年中親に叱られていましたし、幼稚園ではいささかイジワルな女の子で、よくクラスメートを泣かし、それでまた叱られました。


「わたしはゼッタイに行かされる。地獄にゼッタイ行かされる」・・・と思い込むようになり、「死」は完全に「地獄」とワンセットで、頭の中をぐるぐる回り、よく悪夢を見ては高熱を出して、小児科の先生のところに連れて行かれました。


私があまりに「死」や「地獄」を恐れるので、ついに父が言いました。
「あの世に『地獄』も『天国』もない。 そんなものは、ただの作り話。 死んだら終わり。 何も感じないし、怖くも痛くもない。 死んだら何もかも全部無くなるだけ。」・・・と。
私は聞きかえしました。
「何も感じなくなるの?」
父は言いました。
「何も感じないし、何も思わなくなる」・・・と。


その時、私はぼんやりと思ったんです。
その方がよっぽど怖い・・・と。
まだ「地獄」があった方がいい・・・と。




(明日につづく)
        文責:ゆう