肉食について


思えば私は、これまでにさんざん「肉」を食べてきました。


牛肉は、さーっと火を軽く通した「しゃぶしゃぶ」で食べるのが最も好みで、「ステーキ」にする場合も、必ず「レア」に焼きました。
そんなわけで焼肉屋では、網の上にどんどんお肉をのせていく人間に、「そんなにいっぺんに焼いたら固くなって不味いじゃないーっ! ばっかもーん!」と叫んでました。


豚肉は、やはり最高の料理法は「とんかつ」だと思ってました。
あと、中華料理にするなら、なんといっても牛肉なんかより豚肉です。


鶏肉は、なんてったって「から揚げ」です!
親子丼も大好きでした。
カレーの具は、牛よりも豚よりも「鶏肉」が一番好きでした。


上記のスタンダードな「肉」以外にも、海外転勤族&食べることが大好き…という家に育ったことから、本当にいろいろな種類を食べました。


日本ではあまり一般的ではない「羊」は、あのニオイが嫌いという人も多いようですが、私は、あのニオイが好きでした。


「ウサギ」も、よく食べました。
ある国の市場では、ウサギは皮を剥がされただけの状態で、積み上げられ売られていましたが、この光景を見るのはイヤなものでした。
でも、私はレストランなんかに行くと、よく「ウサギ」を注文しました。
美味しいんですよ・・・ウサギって・・・


「ウズラ」や「ハト」なんかは、まるごとローストしたものをお皿にのっけて出されても平気でした。
それどころか、お腹にいろいろ詰め物をした丸焼きなんかは、そこを切り開いて食べるのが大好きでした。


「鹿」は、あまり美味しいとは思いませんでしたが、シーズンが来ると結構食べました。


珍しいところでは、「トナカイ」を食べたこともあります。
これははっきり不味かったです。


あと、東南アジアの某国では、「ワニ」も食べました。
これは、本当の本当に固くて、どうしようもなく不味かった・・・です。




思えば、本当に沢山の「肉」を食べ、私はこの身体を養ってきました。


しかし最近は、どうも「肉」を食べる気がしません。
無理矢理に我慢しているわけではないので、付き合いの席などでは、普通に一緒に食べていますが、でも、どうしてか「美味しい」と感じなくなってきてしまいました。
別に、狂牛病鳥インフルエンザを恐れるあまり・・・というわけではありません。
ごく単純に、好みが変わったというか、とにかく美味しく感じなくなってるんですよね…




私たちは、あらゆる他の「いのち」を食べて肉体を維持しています。
野菜も、植物という「いのち」ですし、魚も「いのち」です。
そして肉は動物の「いのち」です。


よく、肉食を避けるベジタリアンに対して、「野菜」も「魚」も「いのち」であることには変わらないのに、「肉」だけを避けるというのはどうか・・・という声が上がります。
私も、長くそう思ってきました。
どんなものにも「いのち」は宿っているというのに、なぜ「動物」はだめなんだ?・・・と。


しかし、どんな人も同じ人間を食べる「カニバリズム」には、生理的な拒否反応を起こすはずです。
長い人類の歴史の中では、「カニバリズム」はけっして珍しいことではなく、世界中の多くの場所で記録が残っていますが、少なくとも現代の文明国に生きる人間は、カニバリズムを「異常」「残酷」「犯罪」だと認識しています。


では、動物と人間の間で線を引いて、「人間」はダメだけれど「動物」ならOK!とか、「この動物」はいいけど「あの動物」はダメ!・・・などという判断は、どういった感覚でなしているのでしょうか・・・
たぶんそれは、「双方の意識が通じ合うかどうか」という点に関わるのかもしれません。
たとえば、「犬」をペットとして可愛がる習慣のある国の人間は、「犬」を食べませんが、「犬」をペットにしない国の人間は、普通に「犬」を食べます。


それならば、「牛」「豚」「鶏」に「意識」はないのでしょうか?


正直、私にはよくわかりません。
「牛」も「豚」「鶏」も、どれも飼ったことがありませんし、意識を通じ合わせた経験もありません。
ただ、問題を感じるのは、そうした経験がはじめから欠落したまま、これらの動物に「意識」があるのかどうかを考えたこともないまま、当たり前のように毎日われわれの社会は「肉」を食べている・・・ということです。


食べてもいいけれど、せめて「考える」くらいはすべきなんじゃないか?・・・と、最近私は強く思っています。
まぁ、そうやって考え続けると、凡人の場合は、私のようにだんだん「美味しく感じない」「食べる気がしない」という状態に陥りますが、「いや、いのちや意識の存在を考えても、充分に肉を美味しく感じられる」という方もいらっしゃるはずで、本来「肉」とは、そういう方にこそ食べる権利があるものなのではないか…と思ったりするわけです・・・
その肉のかつての持ち主が殺される様子を想像するだけで食が細るような人は、そもそもその肉を食べる資格などないんじゃないか?・・・と。


    (文責:ゆう)

ベジタリアンの文化誌 (中公文庫)

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