「学校」というところ


うちの息子は、いわゆる「アスペルガー症候群」だと診断されてます。
ひとくちにアスペルガー症候群と言っても、その顕れ方は人によって様々ですが、うちの子の場合、最も困る点は「場の空気が読めない」ということに尽きる気がします。
IQは非常に高く、言語能力も「語彙」は大人並ですが、その「言葉」の奥に内包される暗黙の共通概念とか、ニュアンスとか、そういうものが分からない人なので、そのすれ違いから、あらゆる局面で問題が発生してきます。


今の学年になってから、息子は、担任の先生となかなかうまくやっていけません。
あともう少しで3学期も終わりますし、来年度からは別の先生になりそうですから、もうしばらくの辛抱だとは思うのですが、しかし、親も何かと辛いことが多く、「こんなにも学校というところは悲しい場所か・・・」と、何度思ったかしれません。


息子の担任の先生は、実に元気で明るい、フルマラソンの大会にも毎回参加されているような体育会系の女性の先生です。
ご自身にもお子さんが二人いて、働くお母さんでもある方です。
保護者面談などでいろいろ話をして見えてくるのは、この先生が非常に努力家でいらっしゃる点です。
「人間は、なにごとも努力しなければならない」
「頑張れば、きっと先が見えてくる」
「一生懸命に前向きにやることが一番」
「ものごとから決して逃げてはいけない」
・・・などの信念を、ご自分の体験を通してお持ちのようで、それは本当に素晴らしいことだと思います。


でも・・・そういった先生の方法論が、うちの息子には一切通じないのです。


うちの子は、「字を書く」ことが、異常に嫌いです。
このことが、学校という場所での生活をどんなに困難にさせていることか・・・
高いIQのお蔭で、どんな字でも「読む」ことは出来ますし、論理的な理解は早いので、口頭では非常に立派なことを、ナマイキな調子で言うくせに、それを「書く」となると、これが頑強にいやがるので、押しても引いてもどうにもならない感じです。
先生がしまいに腹を立てても、彼には「場」の空気が読めないので、こちらの意向を汲んで、いやな作業でも我慢してやる・・・なんてことは、絶対にありません。
自分がやりたくないものは、絶対にやりません。


これが、今の担任の先生には、「わがまま」「自己中心」「自分を甘やかしている」ようにしか受け取れないんです。
なまじ能力があるので、そう思われても仕方がないのかもしれませんが、でも、これは自閉症の特性であって、その辺を理解してもらわないと、子供はどんどん心を閉ざして頑なになりますし、自信は失いますし、何もいいことはありません。
その点は、何度も伝えていますし、コミュニケーション教室の先生からも、カウンセラーの先生からも定期的にお話してもらっていますが、どうも解かってもらえないんですよね・・・
結局最後は、「でももっと努力して」とか「頑張って」とかいう話になってしまいます。
それができたら苦労はないよっ!・・・と言いたいところを、ぐっとこらえて唇を噛み、溜息をつく私です。


私にしても、夫のセレフィカさんにしても、自分が学校に通っていた頃は、「優等生」そのものでした。
私にとっての学校は、自分が認めてもらえる場所であり、楽しい場所であり、やればやっただけのことは返ってくる空間でした。
セレフィカさんにしても、・・・(彼はちょっとアスペっぽい部分・・・同じ服を着続けるとか・・・もある人ですが^^;;)、学業は申し分なくきちんとやるし、運動能力は高いし、生徒会役員はやるし、親や先生にしてみればこんな模範的な子はいないだろうと思うような優秀さだったと思います。


でも、こういう親のところに、学校であらゆるトラブルを起こしがちで、友達にも、先生にもなかなか理解され難い特性を持った子供が、生まれてくるんですよね・・・




子供は、親を選んで生まれてくるそうです。
その子にとって、最も勉強になる親を選んでいる・・・とも言えるでしょうし、その親にとって、最も勉強になるように選んで来る・・・とも言えるんでしょう。


こうした霊的真理を学んで、私は随分ラクになりました。
以前とは比べものにならないほど、本当に気持ちがラクになったと思います。


それでも・・・やっぱり毎日、子供のことになると辛いんですよね・・・
この物質的な価値観に支配された世界で、この先、この子はどうやって生きていくんだろう・・・と考えると、もう本当に辛いんですよ。
それでも、「いや、悲観的に考えるのはやめて、自分に出来ることを精一杯やろう」と思い、ただひたすら愛そう、大切な存在としてまるごと受け入れよう、それだけでいい・・・と心を向けていくのですが、周囲の目や雑音を無視することもできず、つい自信を失いそうになります。


今の子供の担任の先生などは、話していると分かるんですが、「親の家庭での指導が悪い」「親の努力が足りない」と、思っていらしゃるんですよね・・・
実家の母なんかも、同じようなことを言います。
同級生の親御さんなんかも、一部の人は、明らかに私に軽蔑の目を向けます。


辛いですよ・・・
こういうマイナス評価のこもった視線を、私は自分が学校に行っている頃にも、今の職場でも、ほとんど受けたことが無かったので、慣れていないこともあり余計に辛いんです。
「なんで私が?」・・・と、つい思います。
その上、頑張ったところで、どうにかなるものでもないし、それに、頑張った先にあるその評価自体がアテになるとは、今の私には到底思えなくなっています。
思えなくなっているけれど、世間はそれで動いているわけで、どこでそれと折り合いをつけていったら良いものか、本当に悩みます。苦しいです。


やっぱり、私たち夫婦は、子供を通じて「いい勉強」をさせてもらってるんですね・・・
もっとラクチンな子育てをしたかった・・・とも思うけれど、それでは私たちにはあまり得るものが無いだろう・・・ということなのかもしれません。


     (文責:ゆう)

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