高校のホームルームにて

思えば昔々から私は、いささか性格的にひねくれたところがありました。


今から書く、高校時代の思い出も、そんな私のひねくれぶりを物語るエピソードの一つです。




季節は秋。


私たちのクラスも、他のクラス同様に、運動会の練習に一段と熱が入る時期でした。
そんな中、しのぶちゃん(仮名w)という女生徒が、クラスの応援用に「おそろいのポンポン」を作ろうと言い出しました。


私は元来、そんな「おそろいのポンポン」で仲良く応援パフォーマンスしたりする趣味はなく、「やりたければ、やりたい人が勝手にやれば〜」といったスタンスだったのですが、何人かの賛同者が現れ、結局、そのポンポン作りは実行に移されることになりました。


ところが、クラス中の人数分ポンポンを作るとなると、それはけっこうな作業なのです。
材料が梱包用の化繊の紐ということもあって、静電気は起きる、ゴミはからみつく、制作に協力する人間は一握り・・
(ちなみに、私は、一応少しは手伝いました。)
そうこうしているうちに運動会当日が迫ってきわけですが、目指す個数のポンポンは出来ません。


・・・で、ついに終礼のホームルームで、しのぶちゃんはバクハツしたのです。
「どぉ〜して、みんな、手伝ってくれないんですか?」


しのぶちゃんは、日頃、自分のことを、いい年こいて「のぶちゃんは〜」「のぶちゃんね〜」と呼んでいるような人で、まぁ、それがとても似合うアイドルのような風貌だったわけですが、その彼女が、大きな目に涙をいっぱいためて、「どぉ〜して?」と訴えるわけです。


当然、クラス中がおろおろしました。
しかし、そうは言っても、みんなそれなりに忙しいわけですよ。
運動会が近いから係りの仕事や、種目ごとの練習もあるし、他委員会や部活、進学校だったから塾や予備校に行く人も多いわけで、昼休みや放課後にポンポン作る暇のある人間って、かなり限られてるわけです。
そういった言訳の意見が2,3出たところで、ついに、しのぶちゃんは泣きはじめました。
「どぉ〜して、みんな、のぶちゃんの気持ちを分かってくれないの? こんなに一所懸命やってるのに・・」・・と、言って。


クラス中は、更におろおろしました。
「ごめんねー、のぶちゃん、ごめんねー」という声があちこちで聞かれました。


ところが、こういう空気の中にいると、私はいたたまれなくなってくるのです。
別に、しのぶちゃんには、何の恨みもありません。
あの甘ったれた「のぶちゃんね〜」の一人称は、どーにかしてくれー・・と、常々耳障りに思っていましたし、そうやって「馬鹿っぽい」演出をあえてやっている彼女のしたたかな部分も垣間見えたので、オトモダチになりたいなどとは、絶対に思わない対象でしたが、でも、別の世界で生きていらっしゃる分には、私には関係のないことだと思ってました。


が、クラス中の、「ごめんねー、のぶちゃん」の合唱の中、急に私は、こう発言したくなったのです。


「あのー、『なんでみんな気持ちを分かってくれないの?』ってことですが、そんなの、分かってくれって言う方が無理だと思います。人にはそれぞれの事情もあるんだし、第一、のぶちゃんだって、他の人の気持ちが分かるんですか? 無理でしょう? だったら、そんな無理なことを言って泣いてるより、普通に、ポンポン作るのに今日これから時間が空いてる人はいますか?って聞けばいいだけなんじゃないですか?」


この発言で、クラス中は、一瞬、おっそろしくシーーーーンとなりました。


そして、次に出た声が、
「それは正論だけどさぁ〜、ゆう(←私の名は通常呼び捨てでした)は、言い方がキツイよぉ〜!」・・・というもの。
おまけに、しのぶちゃんは、声を上げて泣き始めるし、私は一気に非難の的に。


その後ホームルームが終わり、あまりの気まずい空気にポンポン作りは手伝わず、隣りのクラスの親友と下校した私は、道すがら、その親友からも言われましたっけ・・。
「あんたは馬鹿だねー。しのぶちゃんみたいな『いい子ちゃん』を敵にまわしても、ろくなことないのに・・。」


あの年の運動会がどんなだったかは、それが不思議と覚えていません。
「おそろいのポンポン」の様子さえ覚えていないんだから、きっと意識的に記憶から消去してしまったんでしょう(笑)
私に向けられていたクラス中の非難も、瞬間的なものだったようで、別にそこからイジメがはじまる・・・なんて子供っぽい顛末にもならなかったし・・


ただ、あのホームルームでのことと、帰宅してから、独り自分のベッドに寝転がって天井を見上げ、しみじみ「孤独だなぁ〜」「この宇宙に、私は独りっきりだ〜」・・・などと実感したことは、今も、忘れることができません。