『藤田嗣治展』


先月末から、東京国立近代美術館「藤田嗣治展」が開かれてます。


藤田嗣治の作品をここまで広範囲にわたって集めた展覧会は初めて・・・と、美術館公式サイト上にも謳われていますが、早速訪れてみると、確かにとても見ごたえがありましたし、やっと今になって、こんなにもまとまって彼の作品が並べられていることに、とにかく感動しました。




藤田嗣治は、東京美術学校(現東京芸大)を卒業してすぐにフランスに留学し、その後たびたび帰国するも、故郷である日本からは誤解されることが多く、太平洋戦争後の日本画壇とのいざこざが決定的な嫌悪となって、ついには日本国籍を捨てた人です。
その後も、世界的には最も有名で成功した日本人西洋画家であるにも関わらず、日本ではなかなか正当な評価を得られませんでした。


藤田は、父親が海軍の軍医総監だったこともあって、太平洋戦争中、軍の依頼で何枚も「戦争画」を描きました。
それが戦後、あたかも「戦争に協力した戦犯」であるかのように一斉攻撃を受けます。
今回の「藤田嗣治展」でも、そうした「戦争画」の大作がいくつか展示されていますが、どのように眺めても私には、それらが「戦意を高揚するための絵」には見えません。
アッツ島玉砕」にしても「サイパン島同胞臣節を全うす」にしても、そこにあるのは戦いによって死んでいく人々に向けた、心の奥底からの鎮魂の祈りだと思います。


なぜこれらが原因となって「戦犯」呼ばわりされなければならなかったのか理解に苦しみますし、まぁそれだけ日本画壇の藤田への妬み嫉みがきつかったことをあらためて感じます。




しかし、戦争画のコーナーは非常に重苦しい空気を漂わせていましたが、それ以外は、久々に思わず笑顔がこぼれてくるような、見ていて楽しい展覧会でした。


私はこれまで、藤田嗣治といえば「藤田の白」で有名な初期の裸婦像ばかりに目がいっていましたが、いやいやどうして、この人、それだけじゃないんだわ!
眺めていて飽きない、画面の隅々まで目を走らせて楽しい作品たちに、「彼は、絵筆を持つことが、本当に好きで好きでならない人だったんだなぁ・・・」と、思いました^^


日本を永遠に去るときに、彼は、「絵描きは絵に誠実に、絵だけ描いていてください。仲間喧嘩をしないでください。一日も早く日本の画壇も、国際水準に達することを祈る」・・・と言ったそうです。
その言葉通り、本当に「絵だけかいていた」人なんでしょうね。
今回しみじみそれを実感しました。




「私が日本を捨てたのではありません。日本が私を捨てたんです。」




まったくなぁ・・・
日本画壇はもったいないことしたもんだよ・・・と思います。
彼の死後、未亡人といつまでも確執を引きずったことも残念でなりません。


でも、少し遅れはしましたが、こうして「藤田嗣治展」が開かれたことを、素直に喜びたいと思いますし、今後もっともっと彼の作品を目にしたいと思います!