苦手なこと


私は、「体育」が大の苦手でした。


学校の時間割表にある科目の中で、得意な順に並べていくと、やはり一番上位にくるのは“好きこそものの上手なれ”の「音楽」で、次に「英語」「世界史」…という感じになるのですが、「体育」は、どう考えても最低中の最低でした。


ところが、私が通っていた学校には、ほぼ毎日のように「体育」の授業がありました。
グラウンドは広く、体育館は二つ、室内プールまであって、「ここは体育学校かい?」と毒づきたくなるほどの運動施設の充実ぶりで、体育教師も、やたら強面が揃っていた気がします。




「体育」の授業の何がイヤだったといって、まず、「短い休み時間に大急ぎで着替えなければならないこと」…がイヤでした。
その前の時間の授業が終わるやいなや、体操服の入った袋を持ち、大急ぎで体育館のロッカー室に向かい、女子生徒がひしめき合う混雑の中、息せき切って着替える、あのせわしなさが不愉快でした。
しかも梅雨時分ともなれば、狭いロッカー室の臭気ときたら!


授業のはじめに必ず行なった準備体操も嫌いでした。
先生の「ピッ、ピッ」と吹く笛に合わせて、クラスの全員がいっせいに同じ動きをする、それがたまらなく滑稽に思えましたし、何より、笛の音が耳に険しくて、気持ちは暗くなるばかり…。


次は、お約束のランニングです。
グラウンドを何周かするわけですが、あぁ〜もぉ〜これが辛いんです。
なにしろ私は、10代後半まで、ちょっと炎天下で立っているだけでも貧血で倒れるほど虚弱だったので、このランニングが終了した段階で、すでにクタクタに疲れているのが常でした。
ところが、こんなのはまだまだ序の口の準備運動で、その後いろいろ球技や器械体操等に取り掛かったわけですが、私ときたら、球技はどれもこれもダメ、器械体操の類はほとんど恐怖に近く、何をしようが「楽しい」なんて思えたためしがありませんでした。


やっとのことで授業時間が過ぎると、今度はまた「着替え」です。
汗ばんだ身体の生徒がドヤドヤとロッカー室に向かい、狭い中で湿った体操服を脱ぐ、その気持ちの悪さ。
それをグッとこらえて制服に戻り、また走って教室へ…。


「あぁ〜あ、学校生活から『体育』なんて授業はなくなればいいのに…」
私は、いつもそう思ってました。
「『体育』のかわりに『数学』が増えたとしても、まだその方がマシ」…とすら思ってました。
数学は、体育の次に苦手で、全然好きになれない科目でしたが、それでもまだ余程ガマンができると思えるほど、とにかく私は「強制される運動」が苦痛だったんですよね…。




大学生になって、これでやっと「体育」から解放されるとおもいきや、なーんとなんと、大学にすら「体育」は必修単位として存在しておりました!


「まったくなぁ〜、なんで日本の学校って、こんなに『体育』が好きなんだろう?」…と、腹立たしく思いましたよ〜
「いったい私が専攻している分野と「体育」に何の関係があるんだよーっ!」なんて文句たらたらで、どうやったら単位を落とさず、できるだけサボることができるか…ということで、入念に出席日数を数え、どうにかこうにか切り抜けたような具合でありました。



ところが、ところが、あぁ〜ところが、そんな私の目の前に現れた「ダサダサ青年」セレフィカさんときたら、「ぼくは、一番好きな科目は『体育』なんですよ〜」なんて言います。
「え? 『数学』じゃなくて?」と聞く私に、「まさかー! ぼくが一番好きなのは『体育』ですよ! だって楽しいじゃない!」と、それはそれは爽やかにおっしゃる・・・。


思えば、これが私の間違いの始まりでありました・・。


自分が「苦手」なものが「得意」な人というのは、輝いて見えるものです。
ましてやセレフィカさんときたら、私の「2大苦手教科」である「体育」と「数学」の両方において、目を見張るばかりの優秀さなのです。
「サッカー部の部員よりサッカーが上手かった」
「全校マラソン大会では上位入賞者の常連だった」
なんて話を聞くと、目の前にいる髪ボーボー、年中野暮なチェック・シャツの彼が、いつしか凄いイケメンに脳内変換されてます!
そして目が眩んだまま結婚してしまったんですから、「苦手意識」というものは、人から冷静な判断力を確実に奪いますねーっ!(゚∀゚)






話をもとに戻します。




私は、とにかく「体育」が苦手でした。
強制的に運動をさせられるのが、イヤでイヤでなりませんでした。
大人になって良かったと思えるのは、日常にああした時間がなくなってくれたことです。


他に苦手なことといえば、「集団行動」で、これについては以前から何度もここに書いています。
たぶん、「体育」が嫌いであることの原因もここに根ざしているような気がします。




そしてもう一つ、実は「酒席」が苦手です。


なぜなら、私はアルコールが一滴も飲めないからなんです。
体質的に、全然ダメなんですよね。
世の中には「美味しいお酒」が沢山あるというのに、それらは、私にとっては無いも同然の未知の飲み物です。


そのため、「酒のつまみ」と言われても、いったいどんな料理がそのお酒に合うのかが、実体験としてわかりません。
一応「知識」として、赤ワインにあうもの、日本酒にあうもの、ビールにあうもの・・・と了解してはいますが、「どう合うのか?」が分からないんです。


あと、飲めないので、当然いい気分の「酔っぱらい」になった経験もなく、そのせいで、夜遅くなってしまったときの駅や電車の中でたまに遭遇する「泥酔した人」が、怖くてなりません。


そんなわけですから、私にはいわゆる「水商売」の仕事は絶対にできません。
ホステスさんなんかやらしても、その無能ぶりに呆れられて、即刻クビでしょうね〜^^;




あと、苦手なことと言えば、「通訳」を頼まれることです。


私は海外で育った経験があり、英語ともう一ヶ国語が話せますが、そのために、時々「通訳」を頼まれることがあります。
でも、これが実はとてもとても「苦手」なのです。


なぜって、その国の言葉が話せることと、それを「翻訳」「通訳」できることは、根本的に別の能力を必要とするからです。


言葉には、その言葉独自のイメージが含まれていますし、使い手それぞれの「クセ」もあります。
プロの翻訳家や通訳の方というのは、それらを総合的に瞬時に判断して、その言葉に該当する別言語の言葉に置き換えていくわけですが、私にはとてもじゃないけれど、そんなワザはありません。
話せればできる・・・なんてものじゃないんですよね、「翻訳」も「通訳」も。
ですから、これらを生業にされている方々には、おのずと深く敬意を抱いています。