『中陰の花』


基本的に私は、本は「文庫本」しか買いません。
なぜなら、文庫本はコンパクトなので持ち歩いても重くありませんし、狭い家の中でもあまり場所を取りません。
しかも、価格が安い!


ですから、どんなに話題の本だろうが、単行本のうちは、私は買いません。
よほど興味があるなら別ですが、最近はそうまでして早急に買いたい本もないし・・・




さて、今月の文春文庫の新刊、2001年の芥川賞受賞作品、禅宗の住職である玄侑宗久氏著『中陰の花』を買いました。


会話文の多い、さらーっと読める短編です。
しかも主人公の奥さんの大阪弁が、なかなかいい雰囲気を出していて、ところどころニヤっと笑いたくなる部分もあり、「人は死んだらどうなるの?」というテーマを扱いつつ、実に軽やかな空気を持つ作品だと思います。
なにより、主人公の住職が、「死後の世界」や「霊魂の存在」を「脳の妄想や幻覚」が見せるものだと思っていることや、日々葬儀や法事でお経をあげているにも関わらず、「人は死んだらどうなるのか?」という素朴な問いに対して、なんら確信にたる答えを持ち得ない・・・という現実が、ごく自然に素直に書かれていて、かえって読者に親近感を抱かせるあたり、なかなか上手いなぁ〜と思います。


・・・しかし、読み終わって正直な感想を言えば、「もの足りない」に尽きる感じです。
文学として読めば嫌いな作品ではありませんし、登場人物も充分に魅力的なんですが、テーマがテーマなだけに、やっぱり私には「もの足りない」としか言えません。
そして、せっかくのテーマだけに、この「もの足りなさ」が残念でもあり、逆にこの「もの足りなさ」ゆえに芥川賞を受賞できたのかもしれないな・・・などとも思います。


     (文責:ゆう)

中陰の花 (文春文庫)

中陰の花 (文春文庫)