小川洋子と私


小川洋子の連作短編集『偶然の祝福 (角川文庫)』に、「僕はあなたの弟です」と言って、女性作家をストーカーする男性が出てきます。
彼はその女性作家の大ファンで、いつも彼女の小説を何冊も持ち歩いてるんですが、「僕がどうしてこんなにもこの小説にひかれるのか・・・それはここに、僕のことが書かれているからです」と言い、「なぜなら僕は、あなたの弟だからです」と繰り返すのです。


これを読んだとき、私は思わず笑ってしまいました。


なぜなら、私は、小川洋子のことを、「この人は、もしかして私自身ではないだろうか?」・・・などと思うことが、しばしばあったからです。
ですから、もし私が小川さんに直接会うことがあったらなら、嬉しさから一瞬気がおかしくなって、「あなたは私です」などと口走らないとも限らないなぁ・・と思ったりもするのです。




一昨年だったか、月刊誌「ユリイカ」で小川洋子の特集が組まれたことがあって、そこに何枚か彼女の写真が載っていました。
その中には、彼女が赤ん坊だった頃、5歳の頃、などの写真もあって、これがかねてからの「小川洋子は私だ疑惑(笑)」を更に後押ししました。
なんとまぁ、小川さんが5歳の頃の写真ときたら、本当の本当に私の5歳の頃とそっくりなのです。
彼女の写真が、そのまま私のアルバムに貼ってあっても、誰も違和感を抱かないだろうと思うほど、よく似ていました。
大人になってからの私たちには、いくらかの隔たりはありますが、でもやっぱり、彼女と私は面差しが似ています。
姉妹で充分通る気がします。
・・・なんてことを書くと、まるで『偶然の祝福』に登場するストーカー男にようですが、でもそうなんだもんなぁ・・・


小川さんの子供時代の愛読書が『アンネ・フランクの日記』だったことも驚きでした。
私にとっても『アンネの日記』は特別なもので、その思いのかけ方が、小川さんの『アンネ・フランクの記憶 (角川文庫)』を読むと、あまりに共通しているのです。


その他にも、小川さんの小説を読んでいると、「これは私のことだ」と思う記述が、毎作品ごとに飛び出てきます。
こんな不思議なシンパシーを感じる作家は、私には小川洋子以外、後にも先にもいません。




今ベストセラーになっている『博士の愛した数式 (新潮文庫)』には、芥川賞を受賞する以前からの「小川ワールド」はもちろん健在ですが、その上に新しく非常にあたたかい人の「愛」が描かれていて、たぶん最高傑作だとは思います。
その他、個人的に私は、前回の記事でも少し触れた『余白の愛 (中公文庫)』や『ホテル・アイリス (幻冬舎文庫)』、あと『凍りついた香り (幻冬舎文庫)』と『冷めない紅茶』が好きです。
これらの個別の感想は、また日をあらためて書くことにします^^